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2007年7月 6日

~意味のある練習を学ぶ~ 集中ということ

前回のブログで、緊張について書いた。そこで触れた、“集中する”ということについて、もう少し詳しく考えてみたい。

演奏中は集中すると書いたけど、いったい何に集中するのだろう。
音楽に?? 本当?? 音楽に集中するってどういうこと?

まず、もう一度”練習“ということの意味合いについて考えたい。
練習には3つの大切な作業があると思う。

1) どうしたいという自分の<はっきりとした>イメージを持つ。
2) そのイメージが聴き手に伝わるためには、どういう音を出せばよいのかを考え、あれこれ試してみて探す。
3) 出てきている音が本当に自分のイメージのように聴こえてきているか判断する。

つまり、心、頭、耳。このどれも欠かせない。

それ以前に、いわゆる”機械的“な演奏が1番まずい。弾けるようになることをとりあえずの目的にして、ひたすらリズム練習などで、音だけを弾いてしまうことから来る大きな遠回り。練習を始めるにあたっては、最初からイメージを強く持つこと。これは忘れないで欲しい。

イメージを持つことの大切さについては、皆さんよく言われると思うけど、そのせいでありがちな誤解のケースが、

<自分なりにイメージを持っている=音楽的に弾いていると勘違いしてしまう>

こと。つまり上記の1)のみになってしまうこと。やっているつもりで、現実が聞こえていないタイプ。

そして次によくある間違いが
1) と3)だけになってしまう場合。
つまり、イメージをもって弾いているのだけど、思うようには響いていない気がするので、もっと強くイメージを持って、さらにとりあえず何回も弾いてみる、というケース。
理想と現実の差が聞こえているのは良いものの、その差を縮めるために<どうすればよいのか>を考えるという2)のステップが抜けているタイプ。

イメージを強く持ったからそのとおりに音が出てくれれば、こんな嬉しいことはない。
でも実際には、そう簡単にはいかず、自分がイメージする様に<相手に>伝わらなければ何の意味もない。それも、"音”で伝えなければ意味がない。

あるとき、私のパートナー(以下D)の生徒さんで、弾きながらハミングのように歌う生徒がいた。だんだんエスカレートして、最後はほとんど彼女の声の方しか聞こえないぐらいの演奏になった。なんで一緒に歌うのか、と聞くと

<だって黙って弾くと、音が歌っていないように聞こえるんです>

という返事。すかさずDが
<それは、君が黙ったことで現実に鳴っている音を聞いたということだよ。>と。

音が歌わないから、自分のイメージに近づくために、歌ってしまっている。要するに、やっている“つもり”。これほど怖いことはない。音楽家は<音>で伝えなければ、仕方ない。
顔をしかめたって、体を動かしたって、伝わらない。もしお客さんがラジオで聞いていたり、演奏者が見えない状況だったら・・と考えてみて欲しい。

そのために、大切なのが2)の作業。どうすればそう聞こえるのか、を探しに探す。ひとつ見つかったと思ってもそこで満足せず、ほかに方法はないかいろんなパターンを試してみる。この模索する時に、本当にたくさんの可能性を学ぶことができる。

たとえば、ここは不安げに弾きたい。だからといって不安げに!と思って弾いたってそうは聞こえない。むしろ音が抜けて、”不安定“に聞かせる結果になってしまう。
そうではなく、不安げに聞こえる音を出す必要がある。そのためには、”不安げ”という感情はどういうことなのか。なんで"不安“を人間は感じるのかを考える。どういうときに不安を感じるのか。不安という感情は、なにかわからないから来る。明らかであれば、怖いものはない。だから、拍子や強拍がはっきり出ないようにしたり、ペダルを薄く使って不気味な効果を出してもよいかもしれない。ハーモニーがたくさん変化する場所なら、それを利用して、一つのハーモニーに安定せず移り変わりを強調しても良いだろうし、不協和音があるなら、それを聞かせるように弾くのもよい。不協和音というのは、文字通り"協和しない”わけだから、不思議な響きとなって、不安さを出すこともできる。

これは、ほんの1つの例でしかない。こういう風に考えて探す過程で、耳も非常に養われる。また、たまたまほかの事を見つけることもできる。不安さを探していたのに、やたら明るい音が出てしまったとしたら、“明るい”方の音も、学んでいるわけだから。

不安定に聞かせたいために、実際不安定に演奏しているのではない、つまりそう<聞かせる>ことが大切なんだ、という例をもう少しわかりやすくするために、演劇をイメージして欲しい。
大きなホールで、なにか内緒話をするシーンを演じるとする。
本当に、内緒話の声で舞台でしゃべったら、誰にも聞こえない。ささやかれているように
聞かせる声を出しているだけで、実際は一番後ろのお客さんにもひとことひとこと全て聞こえているでしょう。

ピアノでも同じこと。探すことから学ぶことは本当に大きい。理想を高く持ち、あれこれ試行錯誤してみてほしい。 

強いイメージもち、実際にそう聞こえているか耳で判断し、調整する。
練習であっても、演奏会であっても、

<心、頭、耳すべてを研ぎ澄ませて>

いて欲しい。これこそ"集中”ではないかな。音楽に集中する・・・これだけでは少し簡単すぎる答えのような気がする。